公益財団法人 放射線影響協会 放射線影響協会疫学センター

国際がん研究機関(IARC)公表のBMJ論文に対する当協会の見解(2005/07)

論文タイトル:
低線量電離放射線被ばく後のがんリスク-15カ国における後向きコホート研究

1.IARC(国際がん研究機関)のCardis等は、15カ国の原子力発電所等放射線作業者における外部放射線被ばく健康影響についての疫学解析結果をこのたびBritish Medical Journal誌上に論文発表した。この中で日本から提供したデータ・資料が白血病についての解析に利用されている。


2.職業被ばくとしての繰り返しまたは低線量率長期被ばくによるがん死亡リスクを直接求めることで、これまで放射線防護基準の根拠としてきた原爆生存者の高線量率急性被ばくの場合との異同を明らかにすることが目的であったが、結論として「放射線業務従事者が受けた典型的な低線量・低線量率の被ばくにおいてさえ、小さくとも過剰がんリスクが存在することを示唆している」こと、および「当該コホートのがん死亡の1-2%が放射線に起因するかも知れない」ことを挙げている。


3.しかし、当協会は、以下に述べる理由でこれらの表現を妥当とは認めず、低線量放射線による明確な健康影響が見出されたとの性急な解釈、判断は厳に慎しむべきであると考える。


4.今回の多国籍疫学解析はこれまでの最大規模のコホートサイズであったにもかかわらず、白血病死亡リスクが英・加・米三カ国研究や原爆被ばく生存者調査の場合と異なって統計的に有意とはならなかった。


5.一方、白血病を除く全がん死亡のSv(シーベルト:被ばく線量)当たり過剰相対リスクの方は、三カ国研究と異なって有意となり、また中央点推定値は原爆被ばく生存者の場合よりも逆に高かった(約3倍)。ただし、この解析には社会経済階層(Socio-economical status: SES)についての情報を伴わないことを理由に、日本、アイダホ国立研究所(アメリカ)およびオンタリオハイドロ社(カナダ)のデータが含まれてはいない。


6.三カ国研究よりコホートサイズがはるかに大きいのに、期待とは逆に統計的検出力が減弱した。比較的高線量の外部被ばくが明確であるにもかかわらず、内部被ばくまたは中性子被ばくの可能性のみを理由に対象者約6万人を排除したことが低検出力の主な原因と考えられる。


7.喫煙などの生活習慣が交絡している可能性については、ほとんどの参加コホートで情報を欠いているため結論が出せない。喫煙関連、非関連のがんについての死亡率比較から、「喫煙の交絡のみでは今回の過剰相対リスクを説明できない」とするにとどまっている。


8.本論文には累積被ばく線量と過剰相対リスクとの関係を明示する図または表が含まれていない。そのため、ある線量域でのみ特に大きく高値側にはずれるようなデータが偶然得られ、発表結果が大きく影響を受けている可能を排除できない。


9.参加各コホートのリスクに関する不均一性について、一国ずつを除いた場合のSv当たり過剰相対リスク推定値の変動が調べられたが、カナダ一国を除いた場合には有意にゼロ以上ではなかった。特に高値側に大きくはずれるカナダ一国の結果が全体結果を左右している可能性が強く示唆される。


10.全がん死亡の過剰相対リスクに関して、先のSES情報を持たない日本を含む3コホートを除外しない場合の解析、内部被ばくまたは中性子被ばくの可能性を伴う者を除外しない場合の解析、累積線量と過剰相対リスクとの線量反応関係、等はいずれも国際共同プロジェクトではすでに完了しているものの、現時点では未公表である。

本論文に公表できない理由は掲載スペース不足とされているが、その意義が極めて重大であるにもかかわらず、公開性に乏しい現状は甚だ遺憾である。

※BMJ論文はこちら